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熊本家庭裁判所 昭和48年(少ハ)4号 決定

少年 N・Y(昭二七・三・三一生)

主文

本件収容継続申請を棄却する。

理由

1、本件収容継続申請の理由

大分少年院長山田豊作成昭和四八年六月七日付少年院法第一一条第二項に基づく収容継続決定の申請書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

2、当裁判所の判断

本件申請の当否につき按ずるに、家庭裁判所調査官補有働れい子の調査報告書並びに本件申請書添付にかかる処遇経過、大分少年院々長山田豊、同院分類保護課長永野彰の意見並びに本人及び保護者の陳述を総合すれば、本人は、昭和四六年八月一七日中等少年院送致決定により、同月二〇日より人吉農芸学院に入院したが、度々の反則行為により犯罪性の矯正不充分なことと、本人の建設機械運転免許取得のために、昭和四七年八月一七日より一〇か月間の収容継続となつた。

しかし、その決定後もなお反則行為があり、そのため、謹慎、院長訓戒等の処分を受け、建設機械運転科も除籍され、進級おくれと成り、特別処遇による個別指導をうけるに至つた。

しかし、依然として成績が好転しなかつたので、中等より特別へ種別変更のうえ、昭和四七年一一月一七日大分少年院に移送され現在に及んでいること、そして大分少年院に移送された当初は、徹底した個別指導により本人の気分一新もあつて、比較的良好な経過を示したが、本年二月七日に不正品作成・額毛抜きで謹慎七日の処分をうけ、更に一級の上に進級(四月一六日)後の五月三〇日には、喫煙未遂・不正発火の反則を起し謹慎一五日の処分をうけ、本件申請に至つたものであることが、夫々認められる。本人の事故の推移をみるに、本人は一年三か月に及ぶ人吉農芸学院に在院中、謹慎処分をうけること九回(延日数六四日間)に及び、その他院長訓戒・課長注意などの処分をうけているが、これらの原因となつた事故は古手の院生とグループをつくり、これを背景に新入生を威圧し、暴力行為、恐喝等の事故が目立つていた。しかし、大分少年院に移送された以後の前示二回に及ぶ事故は、概ね本人の、主体性のない附和雷同的性格、自己抑制力のない未熟さに基因するものであり、人吉農芸学院在院中の粗暴的な性格は相当改善されてきたものと考えられるのである。本人はこの一連の反則行為を深く反省し、今後の自戒を誓つているところにて、又一方本人の出院後の受入れ態勢についてみるに、保護者は以前の悪友をさけるため、福岡県久留米在住の国鉄職員である本人の姉婿D・Oの許に同居させ、同人夫婦の監督のもとに、本人の希望する自動車関係の仕事に就かせる手筈になつており、義兄D・○は、本人の指導監督に熱意を示しており、その受入れ態勢は充分期待できるものと思われる。

少年院としては、今後の教育に当つては、本人に自主性、主体性を身につけさせる為個別指導を強めていく意向であるが、本人はすでに満二一歳を超え、一年一〇か月余の収容生活を過しており、一日も早く出院し、義兄のもとで働くことを望んでおり、これまでの長期間の収容生活の為、これ以上の教育に自ら取り組む積極的な意欲はうかがわれない。

以上のことから、前認定のとおり本人の性格は未だ未熟ではあるが、以前に比すると相当改善されており、また出院後の受入れ態勢も充分なものがあるし、本人の年齢、在院期間及び収容教育に対する意欲等を考慮すれば、さらに継続して院内で教育するよりも、一抹の不安は残るものの、義兄夫婦の監督と、成人でもある本人の自覚、自戒のもとに社会生活に適応せしめるのが適当と思料する。

そうだとすれば、本件申請は理由がないので、棄却するものとし主文のとおり決定する。

(裁判官 末光直巳)

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